平安時代から続く曲物の技術と工程―セイロ・ウラゴシ―

セイロ

皆さんのご家庭に、「セイロ」や「ウラゴシ」はありますか?
セイロは蒸し料理に使われ、ウラゴシは細かい網目を使って材料を漉すために使いますよね。
近頃は金属製のものもありますが、木製のものは平安時代から継承され、今なお職人によって作られていることをご存知ですか?
身近にありながらも、あまり知られていないセイロやウラゴシの制作工程や、同じ品目の中でも異なる点をご紹介します。セイロ、ウラゴシ選びにもお役立てください。
※大川セイロ店の大川良夫さんに実際の工程を見せていただきました。

(大川良夫さんに関する記事はこちら「馬毛織りを復活させた!伝統製法を守る大川セイロ店」)

セイロもウラゴシも曲物

セイロやウラゴシのように、檜などを薄く削って円形に曲げ、つなぎあわせて作った容器を曲物(まげもの)といいます。平安時代の巻き物に桶が描かれていることから、この時代からあったと考えられています。
シンプルな見た目のセイロやウラゴシも、時代とともに変化した部分があります。それは、側面に使われる木材の種類です。100年ほど前までは、割り材といって丸太をナタで割っていって薄くなったものを使っていました。現在では、機械で薄くカットされたものが主に使われています。
1枚の薄い木の板が円形になっているのは、熱湯で木を温めてからコロと呼ばれる丸太に巻きつけてクセを付けているからです。

割り材

丸太にひびを入れて割きます。

割り材

ナタを使ってさらに薄くしていきます。

セイロ編

つなぎ方は2通りある

円形になった板をつなぎ合わせるには2通りのやり方があります。ホチキスでとめるか、山桜の皮で縫うかです。ホチキスでとめられたものは業務用のセイロが多いのですが、金属は錆びてしまい味に違いが出るからと、皮だけで縫われたものを選ぶ方もいらっしゃるそうです。

セイロ

ホチキスを使ったセイロです。

セイロ

山桜の皮だけを使ったセイロです。

山桜の皮はとても貴重で、国産がとれるのは奈良県の1ヶ所だけになってしまいました。とれた皮は、表面がゴツゴツしているので、道具を使ってきれいになるまで削ります。この作業は、皮を薄くするという作り手の使いたい厚さに調節する役割も果たします。

削る

体勢を維持して体重をのせて削る作業は見た目よりも大変です。

接着剤にも2通りの材料が

接着させる部分に使う材料も2種類あります。木工用ボンドと続飯(そくい)といって御飯をねって作る天然の接着剤です。続飯を使った制作は昔からのもので、まれに木工用ボンドにアレルギーがある方は続飯が使われたセイロを注文されるそうです。

続飯

続飯はヘラを使ってねります。

セイロ制作工程

※制作は分業であるため、一部をご紹介しています。

・山桜の皮は、削る際に木くずが飛ばないよう水につけてから使う。

・山桜の皮を削っていく。

・適当な幅にカットする。

皮を切る

・「かわさし」という道具を使って山桜の皮が通る穴を開ける。

かわさし かわさし

・皮で縫っていく

縫う

・カンナをかけて表面をなめらかにする

カンナ

・組み立てる

組み立て

ウラゴシ編

より貴重になる馬毛のウラゴシ

最重要なのは漉すための網の部分ですが、馬毛に比べ、金属製のものは味を変えてしまうことや、漉した時のキメの細かさの違いから、伝統的に使われてきた馬毛のものを選ぶ人が増えています。しかし、馬毛の網を織れる人が日本でただ1人、つまり世界で1人だけになってしまいました。

馬毛

馬毛は尻尾の根元の太い部分を使います。

網

織りあがったものです。2本1組で織られています。

ウラゴシ

ウラゴシ完成品です。

最後に

セイロやウラゴシにも、同じ品目でも使われる材料に違いがあることや、今も続いている職人による制作工程を知っていただけたでしょうか。継承されてきた材料には、使い手を考えた合理的なものが多かったようです。
買う際には、ご紹介したポイントに注意して選んでみてください。

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セイロ

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