甲州手彫印章 望月煌雅

今回ご紹介する伝統工芸士は、甲州手彫印章の望月煌雅(もちづき こうが)さんです。 望月さん 伝統的工芸品、甲州手彫印章についてはこちら、制作工程についてはこちらをご覧ください。 印章という少し特殊な工芸品には、どんなところに職人のこだわりや創意が込められているのでしょうか。インタビューを通してお聞きしました。

◎印章について:良い判子とは何か

押印された判子 手彫印章はその名の通り、全部の工程が手作業によって行われています。100年以上もの間変わることのない制作工程を受け継いできた理由についてこのように答えてくださいました。

望月さん:実印であれば、職人が1日に作れるのは3,4本です。手彫りなので同じ文字で同じ字体だったとしても少しずつ違います。また、デザインから決めるので作る人によって個性が出ます。機械彫りがなかったころは、そういった手彫りの一品ものだけでした。本来の判子の目的や用途や役割からすると、印章はそうでなくてはならないと思います。

◎はじめたきっかけ:判子の里、六郷

mochi3 望月さんの生まれた六郷は、日本一の判子の生産地として知られています。手彫印章が盛んだった時代には、日本全国の5割がその地域で作られていました。そのため、望月さんにとって判子作りはとても身近な職業のひとつでした。年々職人の数は減っているものの、モニュメントや資料館などのPR活動が行われており、地域の産業として親しまれていることが伺えます。

望月さん:判子のまちに生まれたこと、家が判子屋だったことはずっと心に通っていました。小学校の卒業文集で「将来は判子屋になる」と書いたこともありましたね。そのときは他に思いつかなかったから書いただけなんですが…。25歳のときに印章職業訓練校へ通い、その後山梨で教室をやっている先生に弟子入りしました。

◎こだわり:日を改めて見ると違う

mochi6 制作の中で、印面に筆で文字を書く「字入れ」という工程があります。この字に従って彫ることになるため、この工程では判子の大方の完成図が決定されます。望月さんは制作のなかでこの作業に最も時間と手間をかけると言います。

望月さん:彫った後の手直しは、曲がりがないかとか、同じ太さとか、線が生きてるかとか、弱い線があるかとかを見ますが、彫っても細くなる一方なので限度があります。そのため、必然的に長い時間を費やせるのがデッサンと字入れです。この段階ではいくらでも手直しができます。時間が経てば見方が変わることもあるので、制約がない限りじっくりと考えて試行錯誤します。購入者の用途や目的を注文の際に聞いていれば、そのことを考えながら制作しますし、励みにもなります。

〜ここで、実際に使われている道具のいくつかをご紹介します〜

mochi2 まず彫刻刀です。荒彫り用から、仕上げ用まであります。 mochi7 印章を固定する道具と、刀を支える道具です。これにより精密な作業ができます。 神経を使う細かい作業の小さい判子よりも、彫る量の多い大きい判子の方が制作に時間がかかるそうです。 mochi8 印章の字入れにはを使います。印章の彫刻士は達筆でもあります。 mochi9 仕上げの際に印章を挟んで固定する道具と、腕を支える道具です。一見指先だけの作業のように見えますが、実際は肘から動かすことを意識して彫っています。

◎工芸品として:ルールに従いつつ、工夫もする

資料 印章制作には様々なルールがあります。例えば、印章に使われる文字は基本的に辞典に載っているものを用います。それらの文字は、古来から優れたものとして残っている古い書体です。しかしながら、文字を正確に写すだけでなく、バランスよく印面に収めるセンスは独自のものを求められます。

望月さん:字の配置で、どうすれば良く収められるかを考えます。決められたルールに従って、どのように収められるかが重要です。多少の変形は許されていますが、増やせる画数にもルールがあります。また、別々の書体を混ぜることはありません。バランスよい配置を決めるのは楽しいです。押したときどんな感じになってるんだろうって。

〜最後に〜

元々は中国から伝わった判子の文化は、今や日本の文化のひとつです。従来彫られた文字は自分の署名の代わりとして使われるため、一種の分身として捉えられていました。
一部では印相を手相と同じように考えて運勢を占うことも行われていますが、そういった心情は抜きにしても、自分の名前を記したものが美しい一品ものであれば大切にしたいと思えるのが常であり、新しい判子を持つことはある意味人生の節目でもあります。
一つ一つに丹精をこめて制作に邁進してきた職人は、印章を通して多くの人々の人生を見守ってきたことでしょう。  

【プロフィール】
望月煌雅(モチヅキ・コウガ)/甲州手彫印章彫刻士
山梨県の六郷町(現 市川三郷町)に生まれる。
判子屋の3代目。
煌雅という名前は、満月(=印影)が雅やかに煌めくという意味。

【煌雅】
住所:山梨県西八代郡市川三郷町岩間1134-1
Tel:0556-32-3121
HP:http://koga-m.com/

 

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ABOUTこの記事をかいた人

Rie

東京都在住の文学部生。趣味は映画観賞、読書、絵画。ものの背景にある、歴史や作り手の物語を知るのが好きです。