馬毛織りを復活させた!伝統製法を守る大川セイロ店

大川さん
大川さん
大川良夫(Yoshio Okawa)

有限会社大川セイロ店代表。曲物をつくる曲げ師。
1941年生まれ。東京都中野区出身。セイロ・フルイ・裏漉しといった曲輪加工品一式を扱う製造卸の大川セイロ店2代目。天然素材の材料だけを使った曲物は海外からの注文も多く、その品質は高く評価されている。馬毛を使った裏漉しは、大川セイロ店でのみ作られている。

(セイロに関する記事はこちら「平安時代から続く曲物の技術と工程―セイロ・ウラゴシ―」)

平安時代から続く曲物の技術と工程―セイロ・ウラゴシ―

2015.11.17

父から受け継いだセイロ作り

戸田雄大(以下、戸田) 大川さんは2代目ということですが、お父様がセイロ屋さんを始めたんですか?

大川良夫(以下、大川 ええ、私の父がセイロ屋さんを始めました。昭和の初めの時代でしたから、職人の家に生まれたら職人を継ぐのが当たり前でしたね。なので何も言わずにセイロを作り始めました。当時は日本が再軍備するんじゃないかと言われてまして、そんな時代背景もあって大学までは行かされました。4年生の頃は週に2回だけ学校へいって、あとは家でセイロ作ってましたよ(笑)。

戸田 本業が学生か職人かわからないですね。こちらにある道具は、穴を開けるものですか?

大川 ええ。私が使ってる道具は、みんな鍛冶屋さんに作ってもらっています。この道具は「かわさし」って言いますけど、ある液体を少しつけて刺すんですけど、何だと思いますか?

かわさし

戸田 もしかして、油ですか?

大川 当たり。油でも食用油なんです。食べるものを扱うわけですから、機械油は使えないわけです。じゃあ、今度はこっち。接着するのに木工用ボンドを使わないで作って欲しいってご要望があって作ってるんですが、何を使うと思いますか?

戸田 なんでしょう。漆ですか?

大川 お米です。続飯(そくい)っていいますけど、お米を板の上で潰すんですよ。お子さんで接着剤にアレルギーがある人がまれにいらっしゃると、こういう注文もあるんですよ。

戸田 お米でくっつくものなんですか?乾いたらパリパリになって、はがれてしまいそうですね。

大川 乾燥した時は縫いあわせてありますから大丈夫です。続飯という、蒸気や水で復活してしまう接着剤を使っていたからこそ、縫い合わせる必要があったとも言えるわけですよね。私がこの仕事をはじめた時は、先輩たちが使う続飯を作るのが毎朝の日課でしたよ。

昔ながらの製法を守る一方で、それを維持するための材料が減少している問題が

戸田 大川さんならではのこだわりって、どういったところですか?

大川 昔通りのものを作っていることです。それは、ホチキスを使わないで山桜の皮だけを使って作っていることです。ホチキスの方が効率よく作れますし、安く売れますからみんなそっちに移ったと思うんですよ。かっぱ橋でもうちのを扱ってくれてるのは1軒だけです。山桜やホチキスの他にビニールでやることが一時期ありましたね。

セイロ

戸田 それはどうなんですか?

大川 蒸気に当たるから、使っているうちにとけて細くなってしまってダメでしたね。

戸田 そうだったんですね。それは残念でしたね。工芸品の職人が材料の調達に困っているというのをよく聞きますが、その山桜の皮は貴重なものですか?

大川 ええ。奈良県に1軒しか扱っているところがないんですよ。私は、ここへ直接行って好きな皮を選んで買っています。山桜の皮を使うのはセイロだけではないですから、他の職人に買えないから分けてもらえないかって依頼されることもあります。それくらい少なくなっていますね。量で言うと、数トン採れていたものが180キロしかとれなくなってしまいました。

戸田 数トンが180キロですか?180キロと聞くとすごい量かなって思いますけど、ものすごく減少しているんですね。その皮は仕入れてから手をかけるんですか?

大川 とってきただけだと表面が汚れていて使えませんから、こうやって削ってきれいにします。削ると薄くなりますけど、この厚さも職人によってそれぞれなんですよ。厚いのがいい人もいれば薄いのがいい人もいます。私が使うのはだいたい年間12キロなんですけど、これを削るのに丸一日かかります。腰が痛くなる大変な作業ですよ(笑)。

大川さん

戸田 大川さんのセイロは他にどういったところに置かれていますか?

大川 卸売りセンターや、デパートですね。ただし、そこでは大川っていう名前はどこへも出ていません。昔からそうですけど、うちは卸ですから職人の名前っていうのは表に出さないものなんですよ。昔からのルールなんですよね。

大川さんシール

大川 大川専用のシールというのもありますけど、見てもわからないようになっています。SLに見えませんか?

戸田 はい、SLだと思いました。

大川 ところが遠くから見ると大川って書いてあるんですよ笑

戸田 本当だ!言われないとわからないです。

大川 「言われてみるとそうだよな」は良いんですけど、基本的には分からないようにしています。

戸田 なるほど、そうなんですね。天然の材料を扱う上で保管にも気を使っていらっしゃるそうですね。

大川 外気温が20度を超えるとエアコンをつけるようにしています。そうしないと竹に虫がわいてしまうんですよ。昔は虫がつかないように薬品を使っていたんですけど、健康にもよくないですから禁止になりました。

確かな技術があるからこそ、信頼がある

戸田 特別な柄杓(ひしゃく)も大川さんのところで扱っているそうですね。どういったところで使われているんですか?

大川 大相撲で力士が力水を汲むものや、成田山新勝寺で使われているもの、それから時代劇で使われているのもそうですね。柄杓以外には時代劇で使われる桶なんかもそうです。NHKの時代劇で曲物指導をしたこともありますよ。

大川さん

ゼロから復活させた馬毛織り

戸田 大川セイロ店といえば、馬毛織りの裏漉しでも有名ですよね。奥さまとお姉さまが試行錯誤の末、ようやくできるようになったと伺っています。復活のエピソードを教えてもらえますか?

大川 馬毛織りは、昔は農家の冬の内職として日本海側で作られていたんですが、時代がたつと雪が降っても外へ出られるようになったために、あるとき突然作られなくなってしまったんです。「どうする誰がやる?」なんて仲間と電話してたら「じゃあ私がやろうか?」って女房が言ってくれて、それが始まりですね。それから馬毛織りのできる大平さんという先生に教えていただいて、その時にビデオ撮影もして何回も何回も練習しました。それから3年後くらいになんとかできるようになりました。それまではなんだかんだって夫婦喧嘩してましたね。「こんなの売り物にならない!やり直し!」なんて言って(笑)。こうして出来るようになったは良いんだけど、今度は欲しい馬毛が手に入らなくて大変でした。中国大使館や、そこから聞いた会社、それからバイオリンを作る会社なんかにも問い合わせてました。結局は伝統工芸の仲間の筆屋さんに紹介していただいた会社から買うことができています。そういえば、今年(2015年)の8月に中国も馬毛の裏漉しを作るのをやめてしまいました。だから、今作れるのは本当にうちの女房と姉さんだけになってしまいました。

ウラゴシ

戸田 そうなんですか。本当に貴重な技術になってしまいましたね。なかなか見つからなかった馬毛ですが、やはり理想の太さなどがあるんですか?

大川 ええ。髪の毛と一緒で、根本が太くて毛先が細くなっていますが、馬毛織りは太くないとだめなんですよ。

戸田 この裏漉しは何日くらいで出来あがるものですか?

大川 大きさによりますけど、直径7寸(約21センチ)のものだと1日ですね。ちなみにこっちが中国製で、こっちが私が作ったものです。指で弾いてごらん。

戸田 あ、全然違いますね!音の高さがまるで違います。大川さんの方が高い音が返ってきます。ということは、張り具合の強さが違うってことですか?

大川 そうです。この張り具合が使い勝手に影響します。

戸田 海外や有名ホテルからの注文もいただいているそうですが、その理由が実際に見て触って分かりました。本日はお忙しいところ、お時間いただきましてありがとうございました。

大川 こちらこそ、ありがとうございました。

(終)

平安時代から続く曲物の技術と工程―セイロ・ウラゴシ―

2015.11.17

【有限会社大川セイロ店】
和、中華セイロ・フルイ・裏漉し・曲輪加工品一式製造卸
場所:東京都中野区上高田1丁目50番7号
Tel1:03-3386-5379
Tel2:03-3388-5379

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