東京手描友禅工房協美 大澤学

神田川と妙正寺川が落ち合う町「落合」。
明治・大正にかけてその一帯が染の産地として賑わっていたことを知る人は少ない。
私たちのはじめての取材にも快く応じて下さったのは東京手描友禅の職人、大澤学(おおさわまなぶ)さんだ。

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昭和39年に工房を設立した実父の大澤敏(おおさわさとし)さんと共に、着物や帯の制作とお教室を営んでいる。

自宅兼工房となっている家で生まれ、10代後半に家の手伝いをはじめたことが彼がこの道に入るきっかけとなった。

 

幼いころといえば、出入りするお弟子さん達に遊んで貰ったこと。
継ぐという意識が元からあったわけではなかったという。
しかし、彼はものづくりへのこだわりについてこう語ってくれた。
「制作していると、色んな物が混ざって作品に出てくるんです。というのも、作り手の生活スタイル、周りの環境、感情の起伏、その日に見たもの感じたことがすぐに映しだされる。

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自分の場合は、この新宿で生まれ育ってきたことそのものを作品に変化できれば良いなと思っています。つまり、金沢や京都と違う東京らしさの表現を目指していきたい」

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ものを作り出すことは、自分そのものを作品で表すこと。
その独創性が見る人を感動させることができる。
そんな作ることの面白さが、今では彼にとっての仕事の原動力だ。

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「伝統工芸というのは、作っただけで満足するのではなく、その後に使って頂くところまで考えていかないと成り立っていかないものです」
自己の満足と他人の評価を両立させてこそ、産業として守っていくことができる。
彼が生業を続けていくために決して無碍にしないのは作り手と受け手の相互関係だ。
「着る人が減れば、作る人も減っていく。
着る人が減っている中でも着続けて頂けるような、ものづくりをしていかなきゃいけないし、そういう場面も作っていかなきゃいけない時代になっている。だから、お教室やイベントで着る機会を増やしたり、やっていることを直接見て頂いたりすることが必要なんです」

手描きで仕上げる友禅の良さは、実際に見て触れることで真価を知ることができる。
また、着る人にも少なからずの知識が求められるのが、着物を有するにあたっての特色であり楽しみでもある。

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将来の最終的な目標について聞いたところ、こう語ってくれた。

「ものづくりをしていくと、作品が後に残っていきますよね。20代30代に作ったものは残っているし、今作っているものもこの先残っていくし。変化していくものだから、その時作ったものはその時にしか作れない。だから、人生の殆どの時間この仕事に関わって最後80才くらいになったとき、どんな物を作っているのだろう。ちょっと興味があります」

 

創作者の周りの環境や支える家族、そして作られた品を使う人との関わり合いのなかで、そこにしかない美しい工芸品が生まれる。

「協美」という工房名に込められたそのような意味が、大澤さんの言葉から思い起こされた。

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【Profile】
大澤 学(オオサワ マナブ) / 染物師
新宿区落合生まれ。 22才で実父の大澤敏に師事。
最近では、1日体験教室や文化服装学院での講座、スタンプラリーの開催を行なう。

【東京手描友禅工房 協美】
東京都新宿区下落合4-6-17
03-3954-3331
http://www.yu-zen.net/index.html

 

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