自然にも人にも優しいものづくりを―注文家具 松浦和美―

松浦和美
松浦和美(Kazumi Matsuura)
 
松浦家具工房代表。大田区伝統工芸発展の会所属。
東京都大田区出身。自然が好きなことから、木を使って暮らしを豊かにする家具作りを始める。無垢の木を使い、機能美にこだわった注文家具製作をしている。

私達が松浦家具工房に着くとすぐに、機械が置かれた部屋に通された。 「狭いけど、ここが工房です」と謙虚な言葉と笑顔で案内されたそこは、防音設備を整え改装された住宅の1階で、大きな工作機械が置かれていた。 木工職人の前には塾講師をしていたり、沖縄の牧場で働いていたりと少し変わった経歴をお持ちの木工家具職人、松浦さんのものづくりとは。木のいい香りに包まれながら、お話を伺いました。

強度と機能を兼ね備えた保育園の箱椅子製作

戸田雄大(以下、戸田) 注文家具というと、本当に幅広い商品を扱うと思うのですが、最近手がけた商品はどういったものですか?

松浦和美(以下、松浦) この間、保育園から注文が来て、子供が使う「箱椅子」というのを作りました。1つで色々な使い方が出来るんです。このまま使えば高めの椅子だし、上下逆さにすると低い椅子になるでしょ。置き方によってはテーブルにもなるし、踏み台にもなるような作りになっています。

箱椅子

箱椅子

戸田 シンプルに見えても多目的に使えるんですね。接着はボンドだけですか?

松浦 ホゾとボンドですね。釘とかの金物は一切使ってないです。素材はタモを使いました。

※ホゾ(臍):木材や石材などを接合する際に、一方の材にあけた穴にはめ込む為、他方の材の一端につくった突起。

 

戸田 持ってみると、ずっしりとして安定性があるんですね。

松浦 意外と重いでしょ?その保育園では、20年前に私が作ったものを今も使ってくれています。頑丈で壊れないから商売あがったりです。なんて(笑)。外でも使っているんだけど、それでもなかなか壊れないんですよ。

自然にも人にも優しいものづくりを

戸田 見ていて思ったんですが、背面だけ素材が違うんですか?

松浦 そうですね。無垢の木は縮んだりしますから、そうなった時に接着面に隙間が出来てしまわないようにここだけ合板を使って調整しているんです。合板も、木型に使われるようなしっかりしたものを使っています。

戸田 木は湿度や温度で変形しますもんね。塗料はどういうのを使うんですか?

松浦 基本的には植物性の亜麻仁油やエゴマ油のものを使います。保育園の家具なんかは特に気を使いますから、無害のものを使います。

戸田 材木を選ぶポイントはどういったことですか?

松浦 一般的なことですが、針葉樹ではなく広葉樹の材木を使います。広葉樹の方が硬いので、日常で使うためにどうしても傷つきやすい家具に向いているんですよね。

戸田 なるほど、それは知らなかったです。

鉋

用途に応じた大小様々な鉋(かんな)

戸田 松浦さんのこだわりはどういったところですか?

松浦 技法でいうと、蟻桟(ありざん)というのがあります。蟻溝(ありみぞ)という溝を作ってそこに木材をはめることで、板の反り止めになります。蟻桟は手間がかかりますし、技術力も必要なので最近はほとんど見なくなりました。私のこだわりは、蟻桟を使って金具を使わず木組みで作ることです。学校の木工技術科で教わった江戸指物の技術の影響を受けている部分がありますね。

蟻桟

蟻桟。木の棒をスライドさせながらはめていく。難しく、技術力を要する。

戸田 ここも木組みですか?

松浦 そおそお。これは「あられ組」といいます。これも金具を使わない木組みで作られています。

あられ組

シンプルで生活に馴染む家具作りを

戸田 徹底して金具を使わないんですね。無垢の木をたくさん使われていますがどうしてですか?

松浦 無垢の木は、年月がたつとあじが出てきますよね。長く使って欲しいし、その過程の変化も楽しんで欲しいと思っているからです。

戸田 木のあじからは温もりを感じられますよね。家具作りにおけるデザインはどのように考えていますか?

松浦 見た目よりも機能美を追求しています。「用の美」なんて言葉もありますけど、そういう美を大事にしています。見た目はできるだけシンプルにというのを心がけていますよ。

戸田 無垢の木の良さを最大限に感じられるような気がしますね。最後に、松浦さんのものづくりのこれからについて教えて下さい。

松浦 私自身、自然が好きでこの仕事を始めた部分がありますから、子供たちにも小さい頃から木に慣れ親しんで育って欲しいという思いがあります。そういうことから、保育園などに導入できる遊具なども手がけていきたいですね。体を使って遊べるものを提案していきたいです。

(終)

おわりに

松浦さんのものづくりには「優しさ」を感じた。それは、保育園の園児むけに製作を続けてきたことから自然と生まれた松浦さん自身のあじだと思う。また、家具作りはもちろんながら木工に関わる様々な製作にも意欲的で、木馬や雪板というスノーボードから派生した遊び道具の製作も手がけていくと仰っていた。自然にも人にも優しいものづくりが、もっと広がっていって欲しい。

【松浦家具工房】
場所:東京都大田区西蒲田30-18-12
Tel/Fax:03-5700-5147
Mail:kazu-momo@hotmail.co.jp