英語の“china”が磁器を意味するように、”japan”は漆器です。
艶のある見た目や漆黒や朱といった独特の色合いが特徴で、木材を漆で加工したお椀や重箱は誰もが目にしたことがあるでしょう。
しかし、なぜその「漆塗り」が日本を代表する伝統技術として残り、高価なものと見なされるのかをご存知でしょうか。
現在、NHK朝ドラ「まれ」で脚光を浴びている石川県の輪島塗など、北海道から沖縄まで全国で22種類もの漆器が伝統工芸として地域で受け継がれています。
今回は漆器の持つ価値や魅力がどこにあるのかを伝統的工芸品の鎌倉彫職人の岡 英雄(おか ひでお)さんに伺いました。岡さんは鎌倉彫の伝統工芸士であると同時に、漆塗りのウクレレの制作も行っています。
鎌倉彫についての詳細は、こちらの記事も併せて御覧ください。
◎漆の特色
ーー漆塗りはなぜ貴重なのでしょう
漆塗りの加工は、プラスチックと同じようでありながら、それを上回る優位な点が多くあるからです。例えば、優れた抗菌性、耐薬品、木材の素地を損なわない、燃やしてもダイオキシンを発生させないなどです。
ーー漆とは一体どういったものですか
端的には木の樹液です。簡単に役割を説明すると、木の表面を傷つけたときにそこを守る「かさぶた」として樹液が出て、木自体を溶かして固めながら傷を治してゆきます。つまり、漆で塗られた木材は「かさぶた」に覆われた状態なので、割れたり傷んだりせずに自然なままの状態を長期間保つことができるのです。また、人工的な物質と違い木の呼吸を完全に塞いでしまうこともありません。
ーーどこで取れるのですか
各地で取ることは可能ですが、北になればなるほど品質が良くなります。中国からの安価な輸入品もあります。
ーー取り扱うには?
漆カブれというものがあり、人によっては加工される前の原料でカブれてしまいます。私の場合は、長年触れてゆくうちに克服しました。慣れれば、物理的にも科学的にもとても面白い素材です。職人としてはムラなく、薄く、美しく塗ることを好みますが、ただ特性を生かそうとするなら沢山塗っても構いません。
◎漆塗りの技術の展開
ーーどんなものを漆で塗ることができますか
基本的に、相性が合えば和紙や陶器でも何でも漆塗りにすることができます。
ーー漆塗りのウクレレ制作との出会いをお聞かせください
かつて七里ガ浜にいたウクレレ作者との出会いがきっかけです。彼は本場ハワイのウクレレの音色を探して「何かが足りない」と試行錯誤を重ねていたところ、仕上げに漆塗りを施すという提案を私のところに持ちかけてくれました。
ウクレレは小さいため、少しの素材の変化が音に影響を及ぼします。漆は木の特性を潰さずに一体化するため、楽器との相性が良いのです。他の楽器では、尺八の内側にも施されています。
初めは接着剤との相性が悪いなどといった問題がありましたが、共に協力して解決してゆきました。仕上げや修理を何度も行っていくうちに私も楽器の作り方も学びました。
◎もっと知られることが必要
「漆」と聞くとテクニカル、美術的、職人に限られたものといった印象を抱いてしまいがちです。しかしながら、その範疇に納めてしまうのではなく、便利な特質を生かして様々な場所やものに幅広く使われていくべきだと岡さんは考えます。漆塗りが日本と世界で重宝されるのは、その他にはない優れた点で純粋に良いものとして選ばれてきたからであり、行き渡って然るべき技術なのです。
【プロフィール】
岡 英雄(オカ ヒデオ)/鎌倉彫
横須賀生まれ。1982年に鎌倉彫職業訓練校を卒業。
87年に独立し工房を設立。
ウクレレやシーカヤックなど漆塗りの新たな可能性を見出す。
【時蔵工房】
住所:鎌倉市鎌倉山3-16-18
TEL:0467-32-1388
HP:http://www.pahoa.jp/tokizo/index.html
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