伊東孝夫(Takao Ito) 有限会社石村屋代表。三味線を作る職人、三絃師(さんげんし)。 1949年生まれ。静岡県出身。高校卒業後、父の後を継いで三絃師として三味線作りを始める。限界を追求しながら培った技術から作られる伊東さんの三味線は、人間国宝にも愛用されるほど。また、無料の三味線教室を開催するなど、三味線の普及活動にも力を入れている。「大田区伝統工芸発展の会」の代表も務める。
見よう見まねで実践からスタート
戸田雄大(以下、戸田) まず、伊東さんが職人になられたきっかけを教えて下さい。
伊東孝夫(以下、伊東) 父親がやっていたからというのがまず1つです。そして、私がちょうど高校を卒業した頃に父が病気になってしまって、そういうタイミングでしたからすぐに三味線作りを始めました。始めてすぐに、歌舞伎の先生から張り替えの依頼が入って、困ったので新橋で三味線屋をやっている叔父のところへ持っていってお願いしたんですよ。ところが持っていったは良いんですけど、「ここに座れ。いいからやれ」とだけ言われたのにはまいりました(笑)。
戸田 それで、その張り替えはどうなったのですか?
伊東 結局、自分で仕上げました。どうですかって見せたら「うん、もうちょっとこっちに張りましょう」とだけ言われましたけど、始まりはそのような感じでした。
戸田 見て学べというスタンスなのは伝わりますが、それはまた大変なスタートでしたね。
全ては良い音が出る三味線を作るために
戸田 皮を張る際に気をつけていることはどういうところですか?
伊東 皮にも種類があって、それぞれで扱い方が違いますし、同じ種類の皮でも扱い方を変えないといけないんです。なぜかというと、1枚の皮には薄いところと厚いところがあるのですが、その1枚を均等な力で張ってしまうと薄いところから破れてしまうからです。かといって、薄いところに合わせて弱く張ってしまえば音が悪くなる。厚いところをより強く張るように調整しながらやっています。
戸田 それは伊東さんのこだわりでもありそうですね。
伊東 そうですね。そのために道具を工夫していますし、良い音が出る三味線を作るために、破れないギリギリまでどれだけ皮を伸ばせるかが大事ですね。常に限界を追求しているので、毎回緊張して汗かいてやっていますよ。限界に挑戦し続けていますから、破いてしまっても、ポジティブにどこからどのように破れたかを見て学ぶことをずっとやっています。
戸田 三味線の音の善し悪しは、皮の張り具合が影響するのですね。
伊東 はい。皮なので使っていると伸びてしまうのですが、私が作ったものは置いておくとまた張れてくるという評判を聞いたことがあります。二度美味しいなんて言っていただいていますよ。
戸田 自分が追求してきたことが、結果として良かったということですね。道具の工夫というのを詳しく教えてもらえますか?
伊東 木の板の枚数なんですが、普通は2枚でやるんです。ところが私は3枚にしてやります。これは、木の板の隙間に木片を詰めていって、テンションを微調整するためです。微調整するためには木片が入る層が複数あった方がいいことに気づいて、自然とやるようになりました。
戸田 なるほど。皮が厚いところはより強く張っていくためにということなんですね。良い三味線を作るためには、破いてしまう失敗を恐れず、むしろその失敗を研究して糧にしていく向上心が伊東さんの技術力の源なんですね。
日本の楽器「三味線」の魅力を伝えたい
戸田 最後に、三味線の今後の発展を目指して伊東さんは行動し続けていると伺っています。改めて、取り組みや目標を教えて下さい。
伊東 ある時、三味線も琴も知らないという日本人に出会いました。それがすごく衝撃的で、これではいけないと思って、無料の三味線教室や地域の催しで三味線に触れてもらう機会をつくっています。また、ギター・ピアノ・バイオリンはそれぞれ良いのですが、世界中でやられている楽器です。三味線は日本にしかない楽器なので、ぜひ若い人にもっと触れてもらって、国際社会の中で注目されるものにしていきたいです。
(終)
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