中村航太(Kouta Nakamura) 株式会社中村正代表。組紐職人。 1974年生まれ。千葉県松戸市出身。松戸市内で120年続く江戸組紐の老舗「江戸組紐 中村正」の4代目。17歳のときに組紐を習い始め、製造業として江戸組紐の職人をまとめながら、各地のデパート、呉服店などで実演も行っている。代々受け継がれた確かな技術とこだわりから作られる江戸組紐は、多くの支持を受けている。
120年の伝統を受け継ぐ決心を
戸田雄大(以下、戸田) 120年続く江戸組紐の老舗だそうですね。ご自身は、小さい頃からこの仕事がしたいと思っていたんですか?
中村航太(以下、中村) 手先を使った作業は小さい頃から好きでしたが、特に考えていなかったですね。きっかけは高校生の時になりますが、ある時ふと自分でも紐を組んでみたいと思ったのです。お願いして組台と糸を準備してもらい、組み方を教わって挑戦しました。
戸田 初めての組みはどうでしたか?
中村 練習とはいえ初めから絹糸を用意してくれて、24玉の「丸源氏組」という組み方を教わりました。組み始めてみると、組目が不揃いで、製品と比べると一目瞭然でしたね。当たり前と言えば当たり前ですが。それから納得のいく組み上がりになるまで、糸の運びの力加減などをあれこれ繰り返し試行錯誤してやってみました。そうしていくうちに、「こうやったらこうなる」みたいなものがつかめてきて、組み上がりも次第に安定してきておもしろくなってきました。パズルを解明するようなゲーム感覚にも近かったと思います。
戸田 なるほど。その後も組紐は続けたのですね?
中村 大学に通いながら続けていて、商品になる「ゆるぎ組(冠組)」の帯締めを組ませてもらってました。二十歳の時に実演でデパートに初めて出ましたが、ものすごく緊張しながら組んでいたのを覚えています。
戸田 その頃はもう家業を継ぐ気持ちはありましたか?
中村 もうそろそろ選択しなければならないと頭では思いながらも、なかなか決められずにいました。「自分の家は日本の伝統衣装の一部を構成するものを作る仕事をしている」ということを誇らしく感じる部分はあり、携わりたいという気持ちも持っていた反面、ずっと長く興味を持ち続けられるかは不安に思っていましたね。途中で飽きてしまわないかと。でも幸運なことに、実演などで色々な方とお話するたびに興味は増していきました。
戸田 工芸の専門学校で2年間勉強されていますよね。家業でやられている方で、学校に習いにいくというのは珍しいと思いました。
中村 そうですね。自宅で組紐を制作している環境だけでは限られた知識しか得られないと思いましたし、勧められたということもありましたので。学校には「友禅」と「織り」のコースがあり、最初の数ヶ月間に両方を体験して、友禅を専攻しました。課題では仮絵羽を縫うこともありましたし、友禅染めの一通りの工程を経験しました。特に私は配色やデザインに苦手意識が強くありましたので、少しでも身につけられればと思いながら過ごしていました。
キモノと帯という主役を引き立てる役割を担っている
戸田 経験を重ねるにつれて、難しさなど、あらためて見えてきたことはありますか?
中村 デザインについては益々考えるようになりましたね。和装では帯締は重要な脇役だと思っています。主役を引き立てる役割、または全体の結びつきを強める役割があると思います。ただ色が合っているというだけでは充分ではありませんし、逆に帯締ばかり主張が強くても調和しませんので。簡単ではありませんが、着物と帯の組み合わせに応じて、その魅力を増幅させられるような帯締を作ることを目標にしています。
伝統を受け継ぎながら、手組みだからできることを精一杯やる
戸田 制作する上でのこだわりはどういうところか教えて下さい。
中村 やはり見た目がよく、しっかり締まる帯締を組むということにつきますね。作業にあたっては「こうすればいつもいい結果になる」や「こういうことをするのは無意味だ」みたいな思い込みにとらわれないようにするのは大切だなといつも思います。
戸田 技術はちゃんとしたものをというのは大前提として、あとはお使いになる方をイメージして柔軟にやっていくということなんですね。この仕事に関わっていく上で、こうしていきたいという目標はありますか?
中村 今まさに和装業界全体が直面していることですが、ここ数年、職人がものすごく減っている現状があります。この数年ですでに失われた技術も色々ありますし、まだ減っていくと思います。ですので少しでも作り手の人数が増えて欲しいです。そのためには私もいろんな技術を正確に伝えられるようになっていないとなりません。
(終)
中村正で作られている帯締めの一部をご紹介します
【株式会社中村正】
組紐製造・卸業
住所:千葉県松戸市松戸1414
Tel:047-362-2667
Fax:047-362-6185
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