みかも焼は、栃木県岩舟町にある窯元「三毳焼小楢窯」でのみ作られている焼き物です。
創始者である父の後を継いだ2代目の川原井文雄さんが、土作りから窯出しまでを全て1人で行っています。先代から技と心を受け継いだ職人によって、どのように三毳の土はみかも焼へと姿を変えるのでしょうか。
今回は、みかも焼ができるまでの一連の制作工程をご紹介します。
(川原井文雄さんの記事はこちら「三毳の土に生き、炎と闘う−みかも焼 川原井文雄−」)
①土選び
三毳山周辺で取ってきた土を原土とし、普段は窯の外に山盛りにして寝かせておきます。すぐには使わず時間を置くことで馴染みが良くなります。この原土はざっと100年分はあるくらい十分な量がストックされていますが、良い土が出ればその都度買っています。田んぼの下の肥えた土などが特に良いそうです。
また、原土だけだとコシがなく焼いた時の縮みが大きくなってしまうので、砂の成分である硅砂(けいしゃ)を独自の割合で配合し調整しています。
②粘土作り
土に混ざっている異物を丁寧に手作業で取り除き、完全に乾燥させます。クラッシャーという土を潰す機械で粉々にします。同時にふるいにかけ不純物をさらに取り除きます。大きく粗い部分は手で潰します。
原土と硅砂を混ぜ水を足して手である程度馴染ませた後は、土練機で真空になるまで何回も練ります。出口を網目状に改良し、純度の高い粘土が麺のように出てくる仕組みになっています。
③土練り
手で練りますが、練っている時に粘土に菊の花のような模様が出ることから「菊練り」と呼ばれています。粘土の硬さを均等にし適度な粘り気を与えるこの作業は、菊練り三年と言われるほど奥が深く難しいものです。
④成形(ろくろ)
川原井さんが最も自信を持つ工程がこのろくろによる成形です。粘土の塊を台に乗せ、遠心力を利用して手で引き上げるようにして様々なものを形作っていきます。ものによって粘土の分量を変え、自らの両手だけを駆使して手作りとは思えないくらい正確に量産することができます。
⑤加工
一晩乾燥させ、生乾きのうちに高台(器の下の台の部分)を削り出したり、取っ手を付けたりして仕上げます。窯変(釉薬による窯の中で起こる自然な色合いの変化)を表現の軸にしているため、紋様などはほとんど付けません。
⑥乾燥
完全に自然乾燥で乾かします。湿気などが影響するので時期によって多少違いはありますが、早くて一週間ほど掛かります。そのため大量注文が入った時や梅雨時は大変だそうです。天日干しすると割れてしまうため風や直射日光を避け、乾きが早過ぎる時はビニールなどをかけてむしろ乾燥速度を遅めます。
⑦素焼き
800℃前後の低めの温度で一度焼きます。丸1日を掛けて焼きますが、これは後に釉薬(ゆうやく)を乗せやすくするためです。
⑧施釉・本焼き
釉薬をかけて本焼きします。1220℃で2日間ほど焼き続けます。釉薬は川原井さん自身が調合しており、焼く前後で色や柄が全く異なります。
現在は薪窯ではなくガス窯なので、焼き具合が安定している時間帯に仮眠をとるようにしています。みかも焼の土は縮みが大きいため、焼くと大体二割ほど縮みます。傷や割れになることもあるので1割はロスを計算しているそうです。
⑨窯出し・完成
焼いた時間と同じくらいの時間はしっかり冷まします。窯から取り出して再び高台を削り、ついに完成です。
~最後に~
以前は関東近郊からのお客さんがほとんんどでしたが、最近は陶器市など川原井さんの取り組みによって、各都道府県から窯元に足を運んで来る方も増えています。暮らしに自然と溶け込むみかも焼製品、一度手にとればすぐにその魅力を感じられることでしょう。