最大の難関は文字入れ−江戸提灯が出来るまで−

室町時代から人々に明かりを灯し、描かれる粋な文字が特徴の江戸提灯。
工業化が進む中で、今もなお一つ一つ職人の手によって作られる江戸提灯の製作工程をご紹介します。

※江戸提灯と江戸手描提灯は同じです。
※写真は瀧澤提灯店様にて撮影されたものを使用しています。

(江戸提灯についてはこちら「文字と灯りで粋を感じる江戸提灯とは」)

1)骨組み

江戸提灯は、提灯の骨組みの作成から始まります。
作る提灯の種類や大きさに応じた型を作ります。この型は同じ提灯の注文がある場合は使い回しすることが出来ますが、基本的に一つの提灯につき一つ制作します。

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上下の「あみだ」と呼ばれる歯車に数枚の型を組みます。ここで組まれる型は提灯の種類や大きさによって枚数が違います。

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2)ひご巻き

提灯の円周に合わせて制作した竹ひごを巻きます。竹ひごの先端には和紙を付けて輪を作りますが、これは重要なポイントであり、和紙でつなぎ目を作ることによって輪の直径を自由に調整することができます。

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3)糸かけ

型に巻いた竹ひごに今度は縦に糸をかけていきます。
糸を一本ずつ巻きつけるようにし、竹ひごを固定します。糸かけは竹ひごの固定だけではなく、提灯の強度を増す為にもなされる工程です。

4)糊つけ

糸かけが終わった竹ひごの部分に糊をつけます。刷毛でまんべんなくつけることによって和紙がつくようにします。

※瀧澤提灯店様では米糊を使用することによって、しなやかさを出します。また、米糊を使用することで提灯自体が長持ちするというメリットがあります。

5)紙貼り

出来上がった骨組みに紙を貼っていきます。江戸提灯は和紙を基本的に貼りますが、最近は注文によってビニールなどの代用品を使用します。
紙を貼るときは手でなでるように張ることによって、竹ひごが少し浮き出るようにします。

使用される和紙は提灯の大きさによって厚さが違います。

使用される和紙は提灯の大きさによって厚さが違います。

6)型外し・確認

紙を貼り終えると型を外します。
上下の「あみだ」と呼ばれる歯車を外し、型を一枚ずつ提灯の口から抜いていきます。

全ての型を抜き終えたら、竹ひごの間に筋を入れながら畳みます。この時に提灯の仕上がりも同時に確認します。

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型が外された提灯を火袋(ひぶくろ)といいます。これは、蝋燭の火をこの中に入れることから付いた名です。

7)文字入れ(家紋も含む)

確認し終えたら次は文字入れです。
提灯の内部に竹などで作られた支え木を入れて固定します。固定され、ピンと張った状態の提灯に墨やポスターカラーで文字や家紋を描いていきます。

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支え木で固定された提灯の内部。

現在はポスターカラーが多く使用されていますが、墨との違いは蝋燭(ろうそく)の火の明かりを通すか否かです。
墨は明かりが抜けるのに対して、ポスターカラーは明かりを遮断してしまう性質があります。

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瀧澤提灯店の瀧澤さんが使用する硯と筆。

この文字入れが江戸提灯の一番難しいところであり、どのような形で文字を描くかが一番神経を使う工程となっています。
江戸文字、相撲文字、勘亭流、寄席文字など注文にあった書体で文字を描きますが、その描き方も特徴があります。
それは、まず縁取りを行ってから中塗りをすることです。

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いきなり文字を描いてしまうのではなく、下書きをする職人もいますが、共通するのは全体像を大切にしていることです。下書きや縁取りをすることによって文字がどのように見えるかを確認し、その後に仕上げます。

7)上下の枠をはめる

文字や家紋を描き終えると、提灯の上下の口に木や金具の枠をはめて完成となります。

8)完成

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〜終わりに〜

江戸提灯の代名詞とも言える文字入れでは、マニュアルなどなく、長年の経験が描く文字があじになります。
描かれている書体はそれぞれ用途が違っていたり、同じ江戸文字でも作る職人によって僅かな違いがあります。文字入れされた江戸提灯を目にした際には、ぜひ文字に注目してみてはいかがでしょうか。

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