室内を明るくするにはライトを使用すると思います。今回は、ライトが普及するまで活躍した照明器具である「江戸提灯」をご紹介します。
提灯とは?
そもそも提灯とは何か?
祭りや飲食店などで見かけることが多いですが、もともとは、紙などの風よけを蝋燭(ろうそく)のまわりにまとった照明器具のことを指します。
1890年に東芝が白熱電球を実用化するまでは、蝋燭が照明として使われていました。
提灯の最大の特徴は伸縮自在であることから、持ち運びや収納にも優れていることです。
また、提灯の「提」には手にさげるという意味があり、携行出来る灯りであることを表しています。これは、提灯は照明としてだけではなく、今日で言う懐中電灯としても使われていたからです。
江戸提灯の歴史
江戸提灯(または江戸手描提灯)の歴史は、室町時代まで遡ります。当時の文献から確認できる「籠提灯(かごちょうちん)」が原型ではないかと言われており、これは竹かごに紙を張っただけの折りたたみが出来ないものでした。室町時代末期には、今も使用されている提灯の原型とも言われている折りたたみ可能なものが生まれました。当時の文献である巻絵では、提灯は仏具的な役割を果たしていたことが確認できます。
その後から江戸時代までは、上流階級において宗教的な祭礼や儀式等で使用され、江戸時代以降は蝋燭が普及したことにより、庶民も照明器具の一つとして使用するようになりました。この時に生まれたのが「懐提灯(ふところちょうちん)」という携帯性に優れた提灯です。当時は一人の職人が型の生成から文字入れまで行っていました。
明治時代には「問屋制」が始まり、この頃から今もなお続いている分業制が始まりました。
当時の技法を受け継ぎ、分業制で今もなお日本各地で作り続けられている提灯は、江戸提灯以外に「八女提灯(福岡県)」「小田原提灯(神奈川県)」「岐阜提灯(岐阜県)」「讃岐提灯(香川県)」があります。
江戸提灯の種類
今日作られている提灯の多くは、工業化が進んだことにより大量生産されたビニール製が多いですが、江戸提灯は和紙を使用していることが前提となっています。提灯と言っても種類は豊富であり、それぞれ違った用途があります。
丸型提灯
提灯の中でも最もポピュラーなものとなっています。使うほどに味が出てきて、独特の温かみを持っています。店舗看板や装飾用など幅広く利用されています。
長型提灯
丸型提灯と同じくポピュラーな型であり、店舗用以外にお祭りや選挙などでも使用されます。
桶型提灯
看板型、切長型または小田原型とも呼ばれる桶型は丸型や長型よりも店舗看板として使用されることが多く、奉納時にも使用されます。
弓張提灯
弓張提灯は他の提灯と違い、持ち手が付いていることからお盆など夏に使用されることが多いです。また、お祭りのお神輿の装飾でも使用されています。
江戸提灯の文字
江戸提灯の最大の特徴とも言われるのは描かれている文字と家紋です。
全て職人の手によって一文字ずつ書かれており、提灯の用途によって使われる文字の書体が違います。
江戸文字
江戸提灯に主に使用される書体であり、楷書を基本としており、一画一画が太くなっていることから遠くから見ても文字を認識出来るようになっています。
勘亭流
芝居文字とも呼ばれる勘亭流は、歌舞伎の看板や番付に使われる書体です。1779年に岡崎屋勘六が考案し、勘亭流の「勘」は彼の名前に由来しています。
相撲文字
根岸流とも呼ばれるこの書体は、大相撲の番付や広告などに使用されています。
寄席文字
橘流とも言われる書体です。これは、客を寄せるための書体であり、客が集まるように縁起を担いで一文字ずつ詰まり加減になっています。
〜終わりに〜
江戸提灯は、提灯が庶民で普及した際に江戸の職人が作り初め、江戸町人に普及し、2007年には東京都伝統工芸品に認定されました。
提灯による灯りはどこか温かみがあり、「和」を感じることが出来ます。他の地域で生成される提灯との違いは、絵柄ではなく文字が主体となっていることです。プリント技術等が普及した今も一つ一つ職人の手によって作られているからこそ江戸時代から続く粋を感じられるかもしれません。
次に提灯を目にした際にはどんな型なのか、そしてどんな書体なのかに注目してみてください。