坂森 登(Noboru Sakamori) 東京都出身。七宝職人。10歳の頃から家業であった七宝作りに関わり始め、大学卒業後に七宝職人に。坂森七宝工芸店では七宝の材料やパーツの販売をはじめ、一般に七宝教室も開いている。
優美な色彩から、仏教典で七つの宝石に例えられる七宝。普通のガラスとは異なり何度でも焼き直しができ、ガラスだから100年経っても色あせることがない。明治時代から続くメタル七宝こと東京七宝の技術を受け継ぐ職人、坂森 登さんにお話を伺った。
有線七宝とメタル七宝の技術をもつ職人
「七宝にはふた通りあって、一つは名古屋発祥のもので、これは有線七宝と言って銀の枠を作ってやっていくもの。もう一つはそこから別れてできたメタル七宝(東京七宝)というもの。これは、プレス機で型を使って同じものを100個とか1000個作ってそれにガラスの粉を焼き付けるようなものです。一品ものを作る技術か、同じものを大量に作る技術かの違いですね。」
「うちは東京の七宝も名古屋の七宝も両方やります。メタル七宝は一箇所に一色しか入れないけど、有線七宝は一箇所に何色も入れてぼかしを入れますから作り方が違ってきます。子供の頃からアクセサリーを作っていて、メタル七宝が同じものを作る技術なのに対して、アクセサリーはそれぞれ違ったものを作るじゃないですか。そういうところから技術をつけてきました。」
一色にこだわるのが職人
「七宝はガラスだから色あせることがないんですよね。100年経ってもこのまま。ガラスだから割れてしまうこともあるけれど、焼き直せば元に戻せます。ガラスの中では珍しく、何回でも焼ける特徴があります。ただし、焼きすぎてしまうとそれだけでダメになってしまうので、温度と時間の見極めがすごく難しいところ。」
「絵の具は約600色あって、その中から350色を主に使うんですが。例えば、ピンク色がちゃんと出ないと他の色もちゃんと出ない。ピンク一色を出すにも技術がいるわけです。色によって焼く温度が少し違っていて、これは高めで綺麗に出るけどこれは低めで綺麗に出るっていうのを見極めないといけない。その狭間でやっていかないといけないのです。ただ色が出ればいいというわけにはいかないのが職人なんですよね。」
七宝職人をとりまく問題
「一般的な職人は仕事を徽章屋にもらっていて、そこで安く請け負ってしまうという問題があります。それだけではなくて、年々仕事も減っています。このような問題から後継者を雇うにも難しい状況です。私のところは独立して教室もやっているし、材料販売もしていますが、みんながみんなそうではないですね。今は七宝を身近に感じてもらえるように広めていきたいです。七宝を知ってもらえれば買っていただいたり、それが業界にとってプラスになっていくと思うので。」
伝統を今まさに築いているという自負心
「伝統って何かというと、100年続いているのが伝統工芸なのです。100年前は伝統ではないですよね。100年前に誰かが作ったのが続いて伝統になった。ということは、今、自分たちが作ったものが100年後に伝統になるわけです。だから伝統というのは伝承していくんだけど、伝承しながらも変えていかないといけない。伝統伝統と言ってずーっと古いの使っていたらなくなってしまう。だから七宝屋もアクセサリーとかいろんなのができないといけない。引いたり足したりして変えていかないと100年後に伝統として残らないと思いますよ。」
100年以上続いてきた伝統を大切にしつつ、次世代にもバトンを渡せるようにと変わることにも前向きな坂森さん。勇気ある小さな一歩を踏み出し、歴史を築く職人とは、まさに坂森さんのような人ではないだろうか。