太田屋4代目 房州うちわ職人

今回ご紹介する伝統工芸士は房州うちわの職人、「うちわの太田屋」の四代目である太田美津江(おおた みつえ)さんです。

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千葉県の伝統的工芸品「房州うちわ」の制作工程、歴史ついてはこちらの記事を御覧ください。

機械化が進むなかでも、時代と共に歩んできた工房の歴史や、うちわ職人の仕事とはいったいどのようなものなのでしょうか。実際にお聞きすることで見えてきたのは、ものづくりに対する真摯さや、手作業で作られる工芸品の温かみでした。

◎仕事:分業制の中継点として

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房州うちわの制作には、竹の伐採からはじまる21以上もの工程が必要とされます。そのため、何人もの職人で役割を分担して行っています。太田さんは、それらの工程を取りまとめる「親方」です。親方は、自らも何工程か担うと同時に、竹から品物になるまでの一連の流れが円滑に進むよう、それぞれの職人の間を往来しなければなりません。

太田さん:分業なので、下手なところがひとつでも出てしまうと、良いものが作れなくなってしまいます。だから、うちの職人さんは身の回りや家の中が整頓されているひとばかりで、だらしない人はいません。一般的に21工程と言われますが、実際のところ細かい作業がその間にあり、たくさんの人の手がかかっています。私の役割は、それらの職人をまとめる中継点となることです。

◎はじめたきっかけ:父親の仕事を継ぐ

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太田さんは、太田屋の四代目です。お父さんが先代だった頃、うちわの生産は年間800万本に登り、生業として盛んに行われていたと言います。しかしながら、太田さんが家を継ぐ頃には既に生産数が減少しており、業者やうちわ屋さんの数も少なくなっていました。そんな中、家業を継ぐことを決心したのは意外な理由からでした。

太田さん:業界自体が衰退していっている中、「このままじゃいけない」という思いもあってか、父は他の所とは少し違う目線を持っていました。柄に従来のものと違う素材を試みたり、体験教室や、販路を開拓したり…。私が24,5歳のときに娘の子育ての傍ら、実家で父親がとても忙しそうにしているのを見ていました。そこで、親の手伝いなら気兼ねなくできると思い始めたんです。始めた当初、父は跡取りとして私に期待していなかったので、厳しく怒りもせず、一緒にいて苦痛じゃありませんでした。でもそのまま10年続けた結果、いつのまにか家を継ぐことになりました。

◎工芸品:日常生活のささやかな楽しみ

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太田屋では、従来の形のものから、独特のものまで作られています。人々の生活と工芸品の関係について、太田さんはこのようにおっしゃっています。

太田さん:昔は江戸で贅沢禁止令が出ていたでしょう。その時代に、うちわの型としてならば(うちわ作りは武士の内職だったため)例外として浮世絵が許されていました。そこで抜け道として華やかなうちわが流行ったんです。やはり人々の生活から楽しみを何もかも取り上げるってことはできないんですね。今は版画となると貴重なので高額になってしまいますが、一品モノとして好んで買われる方はいらっしゃいますね。

〜そんな太田屋のうちわの幾つかをご紹介します〜
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こちらは、伝統工芸の手描友禅染をあしらったものです。また、柄の部分は竹の「根っこ」を使っているため、他には見られない特徴的な形をしています。「竹の根を使ったうちわが作りたくて、柄もちょっと特別なものしたいなと思ったところ、手描友禅の職人さんを紹介して貰ってコラボが決まりました」と太田さん。

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こちらは、骨の部分を黒く染めています。家具の専門の職人と協力し、一本一本が美しく染まるようにこだわっています。太田さん曰く、「父が唯一褒めてくれた作品」だそうです。

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そのほかに、様々な素材を用いたデザインが揃っており、個人の用途や好みに合わせて商品を選ぶことができます。(画像は左からちりめん、浴衣地、手ぬぐい)

◎工房とショップ:意外なお客さん

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太田屋では、デパートや道の駅の他に、インターネット通販も行われています。それに加えて、自宅兼工房に直売できる小さなショップが併設されています。時には「ぜひ実際に手にとって見てみたい」という方が遠方から訪れることもあるそうです。客層は老若男女を問わないと言います。その中でも最も印象的だったエピソードをお聞きしました。

太田さん:一度香港から若い女の子が二人来たことがあります。うちわの体験をしたいということをスマホかタブレットで翻訳して見せてくれました。知り合いの中国語ができる人に通訳をお願いして、通常体験教室は20人以上としてるところ特別に作らせてあげたら、とても喜んで持って帰っていきましたよ。

太田さん:何年か前に、スウェーデンの女性が来たこともあります。日本の工芸品が好きだとおっしゃり、白い壁に似合うのはどれだろうと想像しながら買って行かれました。ヨーロッパの人にとっては竹製品が珍しいそうです。

〜最後に〜

よく使う必需品として良いものをひとつ大事に持っていたいという考え方が広まれば良いなと語る太田さん。少しでも長く愛用して欲しいという思いが、端正に作られた品から感じられます。
手内職の一枚一枚丹精込めて作られた「房州うちわ」は、贅沢の禁止された江戸時代の庶民から、あくせくと忙しく働く現代人にまで、いつの時代の人々にも心地よい暇とささやかな遊び心を与え続けてくれることでしょう。

【プロフィール】
太田美津江(オオタ ミツエ)/うちわ職人
太田屋の4代目。ご主人はろくろでコマの制作販売を行っている。ご自宅には猫3匹と犬1匹がいる。

【うちわの太田屋】
千葉県南房総市富浦町多田良1193
電話:0470-33-2792
HP: http://ota-ya.net/

 

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ABOUTこの記事をかいた人

Rie

東京都在住の文学部生。趣味は映画観賞、読書、絵画。ものの背景にある、歴史や作り手の物語を知るのが好きです。