型紙の枠を超えた芸術品ー伊勢型紙ー

日本には多くの伝統的染色技法があります。
その中でも「型染め」と「摺り込み染(すりこみぞめ)」には、型紙が欠かせません。

「伊勢型紙」は経済産業大臣指定伝統的工芸品の中で唯一の型紙です。
伊勢型紙のほとんどが伊勢国白子(現・三重県鈴鹿市)地区で生産され、その知名度は江戸時代中期に、「江戸小紋」の流行と共に全国的に知られるようになりました。

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今回は、東京都で伊勢型紙製作を続ける宮崎正明さんの作品と共に、伊勢型紙についてご紹介します。

宮崎さんの記事はコチラ繊細さと忍耐の結晶、伊勢型紙ー宮崎正明ー

◎伊勢型紙とは

伊勢型紙は、友禅・浴衣・小紋などの柄や模様を生地に染色する為に使われる型紙の一つです。
その名は生産地から来ており、かつては流通している99%が伊勢国白子地区で生産されたことから「伊勢型紙」と呼ばれるようになりました。
ですが、最初から伊勢型紙と呼ばれていたかというとそうではなく、「伊勢の型やさん」との愛称で呼ばれていたことがいくつかの文献から確認されています。

◎伊勢型紙の歴史

伊勢型紙の始まりについては諸説あります。
奈良時代に「孫七」という人が型紙業を始めたとする説や、虫食いの葉をみて型紙を思いついたとする説などがありますが、平安時代には既に型紙業があり、室町時代末期には「白子型」というものが存在していたことが、狩野吉信の「職人尽絵(しょくにんづくしえ)」によって確認されています。

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江戸時代に入ると、白子は紀州藩の天領になったことから、紀州藩の保護を受けて発展を遂げていきます。紀州藩による保護は、型彫りはもちろん、彫った型の売買を飛躍的に伸ばしました。当時、伊勢型紙の生産地であった白子の港から江戸へ木綿を積み出していたことや、奈良・京都などへ海産物を運ぶための要となった場所であったことから伊勢型紙の認知度は拡大していきました。

戦争で一旦は型紙の需要が低くなったものの、戦後に国内の復旧が進むと同時に着物の需要が高まったことから、型紙業者も増えていきました。伊勢型紙のピークは1965年(昭和40年)と言われており、そこからは新しい技術等の普及によりまた型紙の需要は減っていきました。

現在は、染色の為の型紙だけではなく、一つの芸術品として好まれたり、照明器具への導入や、建築建具に用いるなど、新たな価値を見出しています。

◎伊勢型紙が出来るまで

伊勢型紙が出来上がるまでは大きく分けて3つの工程があります。その中でも重要なのが彫刻です。どのような柄や模様を彫るかによって違う刃を使う必要があり、型染め等で使う為の目印の製作も要となってきます。

①型地紙の製作

伊勢型紙を作る上で欠かせないのが「型地紙」です。
伊勢型紙の多くは、岐阜県で生産される美濃和紙を使用しますが、一部は埼玉県産の小川和紙も使用されます。

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伊勢型紙は彫刻刀や小刀を使用して彫るため、型地紙も強くて伸縮しないものが好まれます。なので、和紙を柿渋で張り合わせ、燻製と乾燥による製法で作られます。ここで重要となってくるのが、強度をつけるため、和紙を張り合わせる際に縦・横と交互に張り合わせることです。

②彫刻技法

伊勢型紙の彫刻技法は大きく分けて4つあります。この4つ以外に型の補強としての糸入れがあります。

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縞彫り(しまぼり):定規と彫刻刀(または小刀)で均等の縞柄を彫る技法です。単純な作業のように見えますが、実は一つの縞を彫るために同じ場所を三度続けて小刃でなぞることもあり、高い技術力が求められます。縞彫りは、小刃を手前に引いて彫ることから「引き彫り」とも言われます。

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突彫り(つきぼり):最も古い技法であり、最大の特徴は縞彫りとは逆で、小刃を垂直に立てて手前から奥に押しながら彫っていきます。複雑な模様などを突き刺すように彫ることからこの名で呼ばれています。

錐彫り(きりぼり):この技法は江戸小紋を彫る際に使用される技法であり、先が丸くなっている彫刻刀を使用するのが特徴です。また、半円状になっている彫刻刀もあります。錐彫りは鮫小紋や行儀、通し紋、アラレなどといった模様を彫る際に優れています。

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道具彫り(どうぐぼり):予め刃が花・扇・菱などの形に造られた彫刻刀を使用し、様々な模様を作ります。この技法は他とは違い、道具を作る所から始まり、その道具の見栄えが作品の出来を左右します。

③紗張り(さはり)&漆塗り

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この工程は大正11年ごろに考案され、現在は補強として使われていた糸入れが紗張りに変わりっていきました。
染色する際に彫った柄がズレてしまったり、めくれて模様が崩れないようにするための工程です。型地紙を彫り終わった後に、非常に細い絹糸で編まれた網を貼っていきます。この工程では漆を使用して型地紙と紗をくっつけていきます。
この後乾燥させることにより、伊勢型紙が完成します。

◎伊勢型紙を活用

近年、染色に留まらず型紙を新しい形で用いる方法も生み出されています。
和室の襖(ふすま)や障子に伊勢型紙を使用し染色することにより、今までとは違うテイストの物を作る職人も増えています。
その多くは、伊勢型紙を作る職人と表具を担当する職人の連携により成り立っています。

また、伊勢型紙をランプシェードに使用する方法もあります。

〜最後に〜

伊勢型紙は、染色技法の道具として活躍してきましたが、時の流れと共にその技術が評価され、一つの芸術品としても扱われるようになりました。
今では、額縁にいれ壁一面に飾ることや、しおりとして利用することもでき、伊勢型紙の可能性は広がってきています。職人が受け継いできた技術を後世へ繋ぐと同時に、新しい価値を見出すのも面白いのではないでしょうか。

 

宮崎さんの作品の数々

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