【寄稿】高橋さんに着物業界、友禅のリアル、生の情報を聞きました

4月のある爽やかな晴れた日に、高田馬場駅で集合し工房へ向かう。

数分歩くと、素敵なのれんがかかった玄関口につく。
伝統工芸家高橋孝之氏の友禅染め墨流しの工房である。
今日は、この独特の着物染技法を見学したあと、高橋さんにインタビューを行い、ハンカチ染めを体験させて頂く。

吉田さん寄稿1

工房に入ると、さっそく長い長い水槽に染料を落として、一反の布を染める技法を見学させてもらう。弟子の方が、染料を等間隔で散らして行く。参加者の1人が、パソコンの待ち受け画面のようだと言っていたが、確かに染料が落ちて、一滴が少しずつ細胞分裂するように広がって行く様子は、緻密に計算された動画のようだった。

平岡さん寄稿3

次に、用具を使って液体のなかの染料をそっと動かし散らして行く。熊の手や、動物のしっぽのような小道具がある。これほど様々な用具を使って模様を作っているとは思いもよらなかった。
そのあと、染料が入った長い水槽に布を下ろし、再び引き上げる。すると、まるで魔法のように模様が写っている。瞬間が、永遠に固まったようであった。

カミさん寄稿1 吉田さん寄稿4 吉田さん寄稿5

そして、自分も試しに染めてみることになった。
しかしながら、予想とは裏腹に、非常に難しい。思ったように均等に染料を散らせない、色の混ぜ方がわからない。迷ったすえ、結局落ち着いた色がいいと思い、緑と黒や白を中心に散らすことにした。
ところが、高橋さんやスタッフの方から「その模様、面白いねぇ」というコメントを頂き、少しずつ楽しくなってきた。結局出来上がったものは、桑の葉の中で蠢く蚕のようなハンカチだった。今の自分自身を反映しているのかも知れない。

吉田さん寄稿アイキャッチ 吉田さん寄稿6

 

その後、工房を離れ、応接間に案内して頂いた。そこで、高橋さんにインタビューを行い、着物業界について聞かせてもらう。

インタビューを通して一番心に残ったのは、「伝統とは、常に進化していくもの」という高橋さんの言葉である。着物産業は、この数十年で著しくダウンサイズしている。まさに、滅びる危機に直面しているという。
しかし、彼はひるまない。変化を恐れない。このような危機的状況の中、どのようにして現代の人々のニーズに合ったものを制作していこうとしているのか、高橋さんは熱く語ってくださった。
高橋さんの工房では、制作するばかりではなく、市場の開拓にも励んでいるという。どんな工夫をして、生き延びたいのか?それを楽しそうに語る工芸家高橋さんの姿が、私の心に残った。

ただし、高橋さんの姿勢は、彼の工房が現代の市場に迎合して世俗化することを決して意味しているのではない。彼の言葉、動作のひとつひとつから、高橋さんがどれほど友禅染を愛しているのかが伝わってきた。
友禅染を誇りとし、友禅染を残したいからこそ、変化を恐れず、柔軟に新しい技にも挑戦できるのだ。ある一つの昔の型を固持し、秘伝として伝え続けるのも伝統の一形体であろう。しかし、伝統の意味は他にもあって良い、ということを高橋さんは示して下さった。

吉田さん寄稿7

 

拡大解釈かもしれないが、人としてのありかたについても言えるのかもしれない。誇りを失わず、現実を見すえて、変えることは変えて行く。それも、嫌々ではなく、好きなように、思うままに変えて行く。それについてくる人がいて、商売が成り立っているとおっしゃっていた。
素晴らしいお仕事、素晴らしい人生だと、素直に感動しながら、私たちは工房を後にした。

written by 吉田匡

 

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