着心地を追求し、最高の一枚を仕上げる和裁技能士

着物はどのようにできているのでしょうか。
反物から着れる状態まで。そこには多くの職人が関わっています。

日々私たちが着る服は生産者が一貫作業を通して製品が出来上がるケースが多いですが、スーツや着物などの着衣は「仕立て屋さん」が生地を完成形態まで仕上げる作業が入ります。
今回は、和裁技能士である中山健(なかやまたけし)さんにお話を伺いました。

(友禅についての記事はこちら「友禅染めの技法と工程」)

◎和裁技能士の仕事を教えて下さい

「和裁技能士」なのですが、こちらは国家試験に合格して名乗ることが出来るものとなります。

私の仕事は「和服の仕立」です。洋裁が洋服を仕立てることに対し、和裁という言葉は和服を仕立てることを指す。
呉服屋さんで売れた反物(たんもの)を購入者が着れる状態にします。
和裁処は最終工程を担うのですが、時には仮絵羽(かりえば)制作の依頼も来ます。仮絵羽は専門の業社さんがいるので、そう多くはないですけどね。
例えば、白生地をお客様のサイズに合わせてから絵を書いたりする場合はこちらにくることがあります。書かれた絵柄から仕立てるのではなく、その人の体に合わせた絵を書いてもらうことが可能になります。
※仮絵羽:仕立ての状態を表す。反物は仮に仕立てた(仮縫いした)ものをさす。反物がどのような着物になるかをイメージしやすくするために仮絵羽をする。

◎きもの仕立処の一日はどのような感じですか

05:30AMから始まります。
06:00AMから工房の掃除から始め、地直し(じのし)をまず施します。地直しとは、着物を縫う前に反物全体にアイロンがけをする事をいいます。
08:00AMには工房に弟子を含めみんなが集まるので、仕上げ作業をし、伝票の確認などの事務作業が午前中のメイン作業です。
午後からは納品、納品がない場合は工房でみんなで縫い作業をやってます。

中山さん

全ての工程が一日で終わるということはあまりないのですが、最近は浴衣などは1日ほどで仕上げます。
小紋等の着物ですと2日はかかり、訪問着等になると3~4日、振袖などの特注品だと5日かかることもあります。

◎きものを仕立てるにあたり一番大事なことはなんですか

地直しですね。
生地は縦横で織られている中で、どうしても斜めに切られてしまっていたり、伸びてしまっている反物があるので、きっちり揃えることによって後々の工程に繋がるので大事にしています。

和裁用コテ

修行先では、地直しについて厳しくはなかったのですが、実家に戻ってきてから大事だと思い今では地直し作業は、全部自分でやってます。

◎一年間を通して、一番忙しい時期はありますか

かつては年末に晴れ着の依頼等で仕立処は忙しかった、なんて話がありますが
今はないですね。近年は前撮りのためだったりなどで夏あたりに晴れ着の依頼が集中したりします。
また中山和裁では休みは取るようにしてます。
夏休みと冬休みは必ず頂いてます。昔は日曜のみ休みで2連休や3連休も稀だったんですが、今では夏と冬休み以外に旗日も基本休むようにしていますが、たまに仕事します。
先日のシルバーウィークも中日は私は休ませていただきました。

裁ちばさみ

◎中山さんはなぜ「脱サラ」をしてまで家業を継ごうと思ったのですか

実家に帰ってきて10年以上たちます。
大学卒業後サラリーマンを2年ほどやって、脱サラして和裁の道に入りました。
横浜にある㈲衣装研究会に入り、鈴木栄治さんに師事しました。
父母共に和裁やってて、両親がいつも家にいることが当たり前で、大学生の時に初めて鍵を持ちました。そしてサラリーマンとして働き始めて、改めて家に両親がいて子供が帰ってきた時に「おかえり」と言える環境って良いなと思い、自分もそういう家庭を築きたいなと思ったのがキッカケですね。

◎今後の「和裁」についてはどう思いますか

実家を継いだ後、HPを作り、看板も出したりして、これが良い勉強の機会となってます。
HPを作ってからは、持っている着物や祖母・母から受け継いだ着物を直したいなどの依頼がくるようになりましたね。
このような依頼がくることにより、着物を「着る人」とコミュニケーションを取る機会が増えたので縫うだけではなく、着る人の為に作ろうと改めて思います。
まだ若い人だと、受け継いだ着物の直しの依頼などが多いですが、直した後に新しいものを買うことへ繋げてゆきたいです。着物を好きになる人・着る人・買う人が増えることを願いますね。確実に着物好きになってきている人は増えてきていると思うので。


中山和裁HP※中山和裁公式HP

〜最後に〜

着物の土台と言える「白生地」というシルクを作る職人、白生地に絵を描けるよう湯のしをする職人、反物を作るには作家(友禅や小紋を作り上げる職人)、そして出来上がった反物を着れる形にする職人(仕立て屋さん)。
着物が出来上がるまでに実に多くの職人が携わっています。
インタビューの最後に中山さんはこのようなことを仰っていました。

“反物から着物へ仕立ててもまだ命は吹きこまれてない。着てもらって初めて着物が生きる。

 

【プロフィール】

中山健
中山 健(ナカヤマ タケシ)
東京都大田区出身。
大学卒業後サラリーマンに。2年後脱サラをして、一念発起して和裁の道へ。
横浜の㈲衣裳研究会に入り、鈴木栄治に師事する。
卒業後、家業を継ぐべく自家に戻り、現在に至る。

【きもの仕立処 中山和裁】

中山和裁
住所:東京都大田区北嶺町41−9
TEL:03-3868-0028
HP:http://www.nakayamawasai.jp/

 

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