【寄稿】伝統工芸突撃取材ツアー「第一回東京手描友禅」に参加して

 今回、Mikoshi Japan 様の伝統工芸突撃取材ツアー「第一回東京手描友禅」に参加させて頂いた。高橋孝之さんという、反物を染める技術を持った職人さんにお話を伺うことができ、墨流しという生地に模様を染める手法の実演を見学させて頂いた。

 墨流しとは、墨を水に流し模様を描き、それを生地に転写する技法であり、日本では古くから行われてきた技法だ。海外でもマーブリングという似た文化があり、高橋さんはその両方を学びご自身の技術としている。

 この墨流しという手法が、私にとって実に面白く印象に残った。作り出される模様のみならず、それを作る過程そのものが見ていて楽しく面白い。そこで今回は、この墨流しという手法から私が感じた面白さについて述べて、雑感とさせて頂きたい。

平岡さん寄稿1

 作業場には、糊を溶かした液体で一杯になった底の浅い水槽が用意されている。ここに模様となる墨を散らしていくのだが、その方法がまず見ていて面白い。筆先を墨にひたし、その筆先を器用に振って水槽にしずくを飛ばす。散ったしずくは、着水した瞬間は点として水面に表れるが、すぐにその点を中心としてすっと色を広げる。

平岡さん寄稿2

 各所に散らばった墨は、それぞれに広がりながら、お互いに混じりあうことは無い。一振りごとに、いくつもの点が水面に表れてはまた広がる。職人さんも手慣れたもので、小気味よくしずくを散らしていくものだから、この作業は観ていてなかなか飽きない。

 ひとつの色を散らし終わると、その上から別の色をまた散らす。これらもまた、先の色と混じりあうことないので、水面はどんどん複雑になり、細かいまだら模様を作ることになる。

平岡さん寄稿3

 この時点で十分面白い模様が出来ているが、さらにここから手を加える。墨の浮いた水面を、櫛や棒で線を引くようにすると、それぞれの墨は混じりあわないままに形を変化させる。引いた線の流れに沿いつつ、層を作るようにして形を変化させていくので、規則的かつ複雑な模様が出来上がることなる。

平岡さん寄稿4

 模様が完成すると、いよいよそれを生地に写す作業に入るわけだが、これは一瞬のうちに終わってしまう。墨が浮かぶ水面に生地をほんの一瞬つけると、張り付くように生地へと転写されるのだ。水面につけた部分からあっという間に墨が写っていくので、先ほどまで漂っていた模様がそのまま切りとられ布になったようにも見える。

平岡さん寄稿5 平岡さん寄稿6 平岡さん寄稿7

 墨流しによって作られる模様は流動的であり、少し触れるだけで変化してしまう。人間側は流れを作ることで模様を生み出すが、あくまで流れのみであって、その変化は完全にはコントロールできない。どの時点でその模様を完成とするかは、生まれる模様と相談しながら決めることになる。

 見学していた我々も、このあとハンカチサイズの生地を染めるプチ墨流しを体験させて頂いたが、自分の考えた通りの模様を作ろうとするのではなく、生まれた模様にどのような意味を見出すか、という視点で考えるのは面白かった。私は墨を散らした時点の模様が既に気に入ったので、そのまま弄ること無く完成とした。 生地に模様を転写した瞬間、先ほどまで如何様にも変化する可能性があった模様はハンカチの中で完成し、不動のものとなった。このハンカチには自分の決断の瞬間が写されているのかと思うとなんとも感慨深い。

平岡さん寄稿8

 

 今回の取材ツアーでは、単なる言葉としての伝統文化ではなく、実感のこもった伝統文化に対するイメージを持つことが出来た。お話し頂いた高橋さんはじめ、貴重な機会を提供して頂いた Mikoshi Japan の皆様に感謝します。

written by 平岡 大空

 

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