思い出をかたちに残すのも表具師の仕事―稲葉刀―

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稲葉さん
稲葉刀(Isamu Inaba)

大田区伝統工芸発展の会所属。
茨城県出身。掛け軸、屏風、ふすま、額など美術工芸品などに布や紙を貼り美しく仕上げる表具師。一般企業を退職後、12年の修行を経て表具師になる。

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無から有を生み出す表具作りの魅力

戸田雄大(以下、戸田) 稲葉さんは、表具師をやられてどれくらいなんですか?

稲葉刀(以下、稲葉) 平成6年に職業訓練校の表具科に入って始めたので、今年で22年になります。

戸田 それまでは何か他のお仕事をされていたんですか?

稲葉 ええ。企業でサラリーマンを定年までやっていましたよ。退職後に何か始めたいと思っていたら、女房に「こんなのどうか」って勧められたんです。それは新聞の記事だったんですが、生まれ故郷に戻って表装を始めて、周りの人に喜んでもらえる仕事が出来ているというものだったんです。良いなあと思いましてね。始めたら夢中になってしまって、12年くらい修行にもでて、今は口コミで依頼されたものを作っています。

掛け軸

戸田 表具作りの魅力はどういうところですか?

稲葉 実際にやってみて、無から有にするというか0から1を生み出すところに魅力を感じましたね。だから卒業してから極めたくて修行にもでて続けようと思いました。でも、お客さんに喜んでもらえるっていうのが一番ですね。

戸田 どういったものを製作されるんですか?

稲葉 最近やったのは、書道展にだしたものを掛け軸にして保存できるようにしました。

戸田 その場合は、半紙に書いた作品があって、それを貼るものを稲葉さんが作るんですよね?

稲葉 そうだね。書道の作品だと、墨だから紙がしぼんじゃって見づらいから湿りをいれて破かないように伸ばすんですよ。そこがすごく神経を使うところ。それから肌裏という紙をつけたりして貼りこむわけですよ。

戸田 墨がにじまないようにやらないとですよね。お客さんはどんな方が多いですか?

稲葉 お茶の先生や書道の先生が多いですね。

戸田 掛け軸などに日々触れている方なんですね。

思い出を表具師の技術で残るものに

戸田 私自身、春原さん(表具師:春原敏雄)にお話を伺うまで表具というものをほとんど知らなかったんです。若い人にも、この魅力をもっと伝えられればいいなと思うんですが。

稲葉 そうだね。小学校でやったイベントの時は、男の子二人くらいだったけど「ここは何ていう名称ですか?」なんて聞いてメモしてる人もいたから、何かきっかけになって将来につなげていけるかもしれないから、ああいう機会があるといいよね。

戸田 小学生にとっても、本当に興味深いものばかりだと思います。住宅の和室も減ってると聞きますから、触れる機会を増やさないとですよね。

稲葉 日本間があって床の間があるっていうのが昔の作りですけど、今は洋間がメインですから、洋間にも掛けられるものもあると良いのかもしれないですね。

戸田 時代に合わせたものというのもやはり大事ですよね。

稲葉 そうだね。子供とか孫が書いた思い出の物を残すために掛け軸にしても良いわけですよ。

戸田 思い出を残すためのものとして捉えられるといいですね。

受け継がれた技法を守りたい理由

稲葉 表具の世界をよく知らない人もまだ多いと思うんだよね。そういう意味でも人にもっと知って欲しいですね。それと、私がやっているのは糊を使った昔からの技法なんですよ。他にアイロンを使う方法もあるんです。この方が糊を使わないので乾かす時間を短縮できて効率的なので、書道展などで大量に手がける時には必要なんです。ところが糊とアイロンの違いは、後で剥がせるかどうかなんです。アイロンは後から剥がせないのですが、糊は剥がせるので修復がききますから、形になればいいという感覚ではなくて、用途に合わせて選んでもらいたいですね。

戸田 春原さんのところに、江戸時代の掛け軸があって修復されていました。糊を使ったものは、そうやって受け継がれていけるわけですね。

稲葉 そういうことだね。

稲葉さん

戸田 最後に、プロの表具師とはどういうものだと思いますか?

稲葉 1つのものを作るのに、その構造・工程を完全に熟知していないとプロとは言えないでしょうね。例えば、修復するためにどういう技法を用いればいいのか、はっきり自分で熟知していないといけないと思うんだよね。そういう意味では、私なんかはまだプロじゃないと思っています。これからも表具師を続ける中で、プロとはこういうものかと実感できるまで学んでいきたいと思っています。

(終)

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【稲葉刀】
場所:東京都大田区西蒲田5-1-6
Tel/Fax:03-3730-0573