江戸の粋を表す和家具ー江戸指物ー

日本の森林は約2500万haあり、そのうち約1300万haが天然林、1000万haが人工林といわれています。そして日本の国土面積に占める森林面積は約66%であり、世界的にみても森林大国であるといえます。
※林野庁調べ

また、日本の多用な気候条件に対応して、様々な樹林・樹種が存在します。これらの原材料に恵まれた日本は古くから木工が盛んでした。

今回は、その木工の中の一つである指物、特に伝統的工芸品の江戸指物にフォーカスしてご紹介します。

※写真は茂上工芸様にて撮影されたものを使用しています。
※色味は実物と多少異なる場合があります。 

繊細かつ堅牢に仕上げる江戸指物師ー茂上 豊ー

2016.12.20

指物とは?

指物は「物差しで測って、正確に作る」や「差し込んで作る」という語源があるといわれています。

この語源通り指物は、物差しで板の長さを測り、しっかりと寸法通りに組み合わせた家具や道具のことを指します。多くの指物はふたや引き出しがあり、釘などを使わず、木材に「ほぞ」と言われる凹凸を作り、そのほぞによって板と板や棒と棒を組み合わせるといった特徴があります。

江戸指物と京指物とその歴史

指物の歴史は京都のほうが古く、平安時代の貴族文化や宮廷文化を起源としています。室町時代以降には、指物を専門とする職人が現れ、茶道文化の確立と共に箱物類の需要が増えたことから指物は発展しました。「指物師」という専門職人が誕生するまでは大工職の手によって作られていました。

大工職から分化したのは指物師だけではなく、戸障子(建具職)・宮殿師(みやし・宮大工)・桧物師(ひものし・曲物師)なども分化しました。

指物は大きく「京指物」と「江戸指物」に分けられます。

京指物

京指物の特徴はその華やかさです。朝廷や公家が主に指物を利用していたことから見た目が優雅かつ精緻な細工が施されています。京指物は1976年6月2日に経済産業大臣指定伝統的工芸品の指定を木工品として受けました。

江戸指物

江戸指物は、江戸時代に徳川幕府が多くの職人を全国から集め、神田・日本橋周辺に大工町/鍛冶町/紺屋町などの職人町を造ったことから始まっています。徳川幕府は手工業の発展を望みこのような手段を取り、江戸時代中頃には消費生活の変化に伴い大工職が檜物師・戸障子師・宮殿師などに細分化された際に「指物師」という職種が誕生しました。

また、江戸時代中期の元禄時代に刊行された『人倫訓蒙図彙(じんりんくんもうずい)』では、江戸の指物町に指物師がいたことを示す記述があります。

江戸指物は京指物とは違い、武家や町人・商人に用いられることが多く、京指物のような華やかな細工は好まれなかったことから、木材本来の木目や渋味を持つ漆塗りを施した形となりました。また、江戸では歌舞伎役者用として多くが作られていました。1997年5月14日には、経済産業大臣指定伝統的工芸品の指定を木工品として受けました。

指物の原材料

指物の原材料は「桑」「欅」「桐」などの木目がきれいなものが多く使用されていますが、中には「杉」「梻(タモ)」「黄檗(キハダ)」「献保梨(ケンポナシ)」「槐(エンジュ)」「栓(セン)」「黒柿(クロガキ)」も使われています。これらは作り手である職人の好みはもちろん、使い手である消費者が特定の材料を指定することから、指物師は様々な木材を巧みに利用して作品を作り上げています。

木材の違いについて(一部のみ)

「桑(くわ)」:江戸指物において最も格式が高く、硬く粘りがあり、細工の際に木崩れしないことが特徴
「黄蘗(きはだ)」:江戸指物において最も多く用いられる原材料。光沢があり、木目がはっきりしていながら上品さが見られる。
「欅(けやき)」:堅さや木目の大胆さが魅力と言われている材料の一つ。
「桐(きり)」:軽く柔らかいが、耐久性に優れていることから、箪笥や収納箱などに用いられてきた。

江戸の「粋」を感じられる江戸指物

江戸指物は「華奢に見えるが実は丈夫である」と言われますが、これは板の厚みを薄く細身にすることによって上品さを出しているからと言われています。

江戸指物はその原材料の魅力を最大限に発揮し、作品自体をスッキリ見せることから目に見える部分で職人間で競うことは少なくなっています。

江戸指物の魅力は裏側に施された「ほぞ」などの精巧さにあるといわれています。

江戸指物が出来上がるまで

江戸指物の最大の特徴は「分業制」ではなく、すべての工程を一人の職人が手作業で仕上げることです。

①乾燥

木材を少なくとも半年、長いもので10年〜20年ほど自然乾燥させます。

②木取り

板、框、棒に必要な長さや大きさに墨書きし、木目が美しく見えるように材料をカットします。
※墨書きは後から消すことを想定しています。

③木削り

木取りを終えたら、表面を削り、整えます。
板の厚さを測る罫引き(けひき)や物差し、鉋(かんな)を主に使用します。

④組手・ほぞ付加工

この工程では製品別に、組み合わせを考え、”ほぞ”を入れる位置を決め、加工していきます。

⑤組立

ほぞを彫り、組手加工を施した板を組んでいきます。この工程でうまくかみ合うかを確認しながら微調整していきます。ときには金槌をつかうこともあります。

⑥外部仕上げ

組立後に、表面を鉋で仕上げます。この時に角に丸みを付けるなどの加工をします。

⑦磨き

加工後に、トクサ・ムクの葉・紙ヤスリなどで磨きあげます。

⑧塗り

生うるしを木地に塗り布で拭き取る作業を10回ほど繰り返し、木目と艶を出します。

⑨金物取付

最後に取っ手などの金具を取り付けます。

⑩完成

〜最後に〜

外からは見えない組み手や継ぎ手を施し、すっきり仕上げられる江戸指物。見えない部分に拘るからこそ江戸の「粋」を感じられます。
そして、金具を使わずして組み立てられた作品は一見物足りなさを感じつつも、その頑丈さには驚かされるでしょう。

近年は百貨店等でも江戸指物の箱物を取扱うお店があります。また、一部の職人は工房の一部をギャラリーとして開放している方もいます。
ぜひ、手にとって「江戸の粋」を感じてみてください。

繊細かつ堅牢に仕上げる江戸指物師ー茂上 豊ー

2016.12.20

【Written by Shusei Toda】
【Photos by Ryonosuke Kaneko】